町、時の流れ、人

2019年7月18日午前10時半過ぎ、京都アニメーション第一スタジオが放火され、執筆している現時点で34人の方が死亡し、34人が重軽傷を負う事件が発生しました。

事件発生した当時のニュースは火災の報道しかなかったため、私は「京アニ燃えちゃったか…早く火を消せたらいいな」くらいの温度感しかなく、普段通りに仕事場に向かいました。

ところが時間の経過につれて、「死亡確認」のニュースが出始め、さらに死亡者数も見るたびに上がって行きました。

頭がだんだん白くなっていきました。何も考えられなくなりました。あまりにものショックで、出社して4時間も経たずに帰宅することにしました。そして翌日も、面接して最低限の作業だけに留まりました。

最初はまだ被害者への悔しみと放火犯への怒りで頭がいっぱいでした。古代中国の凌遅刑が復活すればいいのにとすら思いました。しかし新しい情報が入ってくるうちにいつの間にか全ての感情を失いました。19日はただロボットのようにひたすらニュースやコメントを更新して眺めるだけの1日を過ごしました。

京アニは私にとってとても大事な存在です。2004年高校生になった私はクラスメイトの影響でアニメにハマり、新旧問わず様々な作品を見ていました。そんな頃に、京アニの元請け作品2作目のAIRと出会い、京アニファンと鍵っ子になりました。感動的なストーリーはもちろん、今でも印象に残ってるのは、周りの多くの人は「あんなクッソでかい目玉まじクソ作画じゃんw」と笑う中、私は逆にあの宝石のような瞳の描き方に魅了されました。中国では「目は心への窓口」の言葉もあり、瞳にこんなに力を入れる作品は神作に決まってると断定しました。そして完結と共に、私の判断は間違ってなかったと安堵しました。もしヒロインが最後死ぬ物語は悲劇ならAIRは間違いなく悲劇ですが、不思議と一般的な悲劇と違うのは最後まで見終わったあと、心に残ったのは憂鬱ではなくまた明日も頑張ろうっという希望に満ち溢れたポジティブな感情でした。

それ以来、女性向けのFree!も含めて京アニのほぼ全ての作品を見てきました。とてもハマった作品もあれば、当然それほど好きになれなかった作品もあります。ただ「適当にこういうのだしとけば儲かりそう」という薄っぺらい作品は一つもなく、どれもスタッフの熱意と苦労がこもった作品ばかりです。この拝金主義が横行し、とりあえずソフトポルノなやつだしとけばホイホイとお金出してくれる楽な商売で生きていける現代社会で、落ち着いてゆっくりと、それもしっかりと一つ一つの作品を心を込めて大事に育てていく会社はそう多くありません。だからこそ、アップルCEOのティムクック氏も京アニを、「home to some of the world’s most talented animators and dreamers(一部の世界で最も才能溢れたアニメーターとドリーマーにとっての家だ)」と高く評価してくれたでしょう。

ティムクックや私のような京アニファンだけでなく、京アニに「監督降板」させられたヤマカンこと山本寛氏も、最初の頃は「ちょっと黙っといて」で炎上しましたが、事件翌日偶然、中国新華社ライブ配信に献花の姿を撮られました。正直なところ、私はヤマカンのことそれほど好きというわけではありませんが、部外者の私より彼のほうがよっぽど京アニに思い入れがあるでしょう。彼は一体どんな気持ちで献花したのかを推測できる立場ではないと自覚しておりますが、あの涙はきっと本物だと私は思います。それにしても運命はわからないもんです。日本でも中国でもなかなか才能が認められず、その上戦争についての発言で中国で炎上し、入国禁止まで食らったヤマカンが、逆に中国メディアにその思い入れの一面が映り、世界に公開されたわけです。

京都アニメーションは創立当初から、地元貢献を企業理念の一つとして運営してきました。今回の事件についても、八田社長は焼失した第一スタジオを取り壊し、記念碑を建てた公園にしたいとコメントしました。これほどの被害を受けても、従業員と彼らの家族への取り組みを最優先にし、そして自社の再建よりも地元民を大事に考えています。これほど尊敬できる企業はなかなか出会えません。そしてこんな尊敬に値する企業だからこそ、地元民のみならず世界中から支持を集めているでしょう。事件発生してから、従業員を頑張って救助しようとしている住民や消防隊、日本中から駆けつけた献花者、世界中から集まる義援金京アニに感動をもたらされた一人一人が自分でできる限りのことに尽力しています。

亡くなった方々は復活できませんが、それでも生き残った我々は自分の使命を果たし、世界をもっと美しくし、より多くの人々に夢を与えなければなりません。それこそが犠牲者へ捧げられる最大の敬意だと私は思い、明日に向けて生きていくと誓います。


※タイトルは京アニによってもアニメ化された作品「CLANNAD」の、ゲーム中BGMの一つのタイトルです。